チームの足並みが、いつまでも揃わない。エンジニアは「実現性が見えない」と言い、営業は「顧客が求めているのはこれじゃない」と言う。あなたは間に立って、何度も資料を直す。会議は増え、合意は遠い。
問題は、人ではない。「文書で合意しようとしていること」にある。同じ企画書でも、立場が違えば見えるものが違う。言葉は、いつも解釈の余地を残す。だから議論は「解釈のすり合わせ」で消耗していく。
ここで効くのが、動くものだ。社会学に「境界オブジェクト」という概念がある——立場の違う人たちが、同じ一つのものを囲んで、それぞれの関心のまま合意できる装置のことだ。動くプロトタイプは、まさにこれになる。
エンジニアはそこに技術的な勘所を見る。営業は顧客の反応を想像する。デザイナーは体験の流れを見る。全員が同じものを触りながら、自分の言葉で語れる。抽象的な企画書では3か月かかった合意が、動くものを前にした10分で決まる——これは比喩ではなく、現場で実際に起きることだ。
責任者であるあなたにとって、これは強力なテコになる。資料を磨いて説得する役割から、「触れるものを、早く、関係者の前に出す」役割へ。あなたの仕事は、議論を仲裁することではなく、議論が前に進む“土俵”を用意することだ。
次の重い会議の前に、完璧な資料を一晩かけて作る代わりに、粗くても動くものを一つ、用意してみてほしい。空気が変わるはずだ。
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