バイブコーディングとは、ひとことで言えば、AIにやりたいことを言葉で伝え、出てきたコードを読まずに「動くもの」を作るやり方だ。2025年初め、AI研究者のAndrej Karpathyが名づけた。完全にAIに委ね、差分は確認せず「全承認」を押し続け、エラーが出たらそのまま貼り返す——使い捨ての週末プロジェクトには十分な、もう“コーディング”とは呼べない何か。そう彼は表現した。
この言葉は爆発的に広がった。検索数は数か月で急増し、辞書の「今年の単語」にも選ばれた。理由は明快だ。Karpathyは「コードを書けない人」ではない。最先端のAI研究者が「コードを読まない」と宣言したことが、非エンジニアにとっての解放宣言になった。「エンジニアを待たずに、自分でプロトタイプを作れるかもしれない」——多くのPdMが、そう気づいた。
ただし、ここから先が、PdMにとって本当に大事なところだ。
バイブコーディングは、一枚岩ではない。 GoogleのエンジニアリングリーダーAddy Osmaniは、AIコーディングを3つのレベルのスペクトラムとして整理した。
- Pure Vibe Coding:プロンプトを投げ、全承認。コードは読まない。品質はデモレベル。Karpathyの原義そのものだ。速度がすべてで、「動くかどうか」を確かめるためだけに使う。
- AI-Assisted Engineering:人間がループに留まり、AIの出力をレビューして方向修正する。AIが下書き、人間が赤ペン。遅くなるが、品質は一段上がる。
- Agentic Engineering:AIエージェントが実装を担い、人間はアーキテクチャ・品質・正確性に責任を持つ。Osmaniの言い方を借りれば、バイブコーディングが“一か八か”なら、Agentic Engineeringは“AIが実装し、人間が品質を保証する”働き方だ。人間はコードを書かないが、品質の責任は手放さない。
そしてOsmaniは、最大の落とし穴に名前をつけた。「70%の罠」だ。バイブコーディングは、アプリの70%を驚くほど速く作れる。画面は動き、データも保存される。ここまでは気持ちいい。問題は残りの30%——エッジケース、セキュリティ、パフォーマンス。ここで「1つ直すと別が壊れる」沼にハマる。プロトタイプなら、70%で十分だ。だが、ユーザーにお金を払ってもらうプロダクトなら、残り30%が勝負を分ける。
では、PdMはこのスペクトラムのどこに立てばいいのか。答えは「固定の場所はない」。プロダクトのステージで動く。アイデア検証やモックアップなら Pure Vibe で速さを取る。本番運用なら Agentic Engineering、あるいはエンジニアへのバトンタッチで、品質に責任を持つ。
この線を引けるかどうかが、PdMの価値を分ける。「バイブコーディングすごい!」と無邪気に叫ぶPdMと、リスクを理解したうえで「ここまではバイブでいい。ここからはエンジニアが必要だ」と線を引けるPdM。信頼されるのは、後者だ。
バイブコーディングは、終わりではなく入口だ。あなたの仕事は、AIに任せる範囲と、人間が責任を持つ範囲を、自分の手で線引きすることにある。
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